この記事は、保険に入っているが「本当に必要か」の判断がつかないまま払い続けている20代・一人暮らし(単身)向けです。
保険の判断が難しいのは「万が一」という感情が数字を見えにくくするからだ。
管理会計では、あるコストをかけることで得られる利益を貢献利益と呼ぶ。
保険料(コスト)に対してどれだけのリスクをカバーできるか(貢献利益)で考えると、判断が感情から切り離せる。
結論:保険料の貢献利益が低い保険から切る
保険の残す・切る判断はこの式で決まる。
保険の貢献利益 = カバーされるリスクの大きさ − 保険料(年額)
カバーされるリスクが「詰む水準」でなければ貢献利益は低い。切る対象になる。
「詰む水準」とは、そのリスクが発生したとき貯金・公的制度だけでは対処できない状態を指す。
貯金や公的制度で対処できるリスクに民間保険をかけても、貢献利益は低い。
保険料というコストに対して、カバーされるリスクが「詰む水準」かどうかだけで判断する。
保険を貢献利益で考える
管理会計の貢献利益は「売上−変動費」で計算される。
保険に当てはめるとこうなる。
| 管理会計の概念 | 保険への翻訳 |
|---|---|
| 変動費(コスト) | 保険料(月額・年額) |
| 売上(得られるもの) | カバーされるリスクの大きさ |
| 貢献利益 | リスクの大きさ − 保険料 |
貢献利益が高い保険=残す。貢献利益が低い保険=切る。この判断だけだ。
「カバーされるリスクの大きさ」を評価する基準はこうなる。
| リスクの水準 | 内容 | 保険の必要性 |
|---|---|---|
| 詰む水準 | 発生したとき貯金・公的制度では対処できない | 高い(残す候補) |
| 困る水準 | 発生したとき生活が一時的に苦しくなるが立て直せる | 低い(公的制度で代替を検討) |
| 不便な水準 | 発生したとき面倒・出費があるが貯金で対処できる | 不要(切る対象) |
「詰む」と「困る」は別だ。
民間保険が必要なのは「詰む水準」のリスクに対してだけだ。
「困る水準」以下のリスクに保険をかけても、貢献利益は低くなる。
保険の種類別:貢献利益の高低
貢献利益が高い保険(残す候補)
就業不能保険は20代一人暮らしにとって貢献利益が高い保険の代表だ。
病気・ケガで長期間働けなくなると収入がゼロになる。
傷病手当金(会社員)は最長1年6か月しか出ない。
それ以降の収入補填手段がない場合、生活が詰む水準になりうる。
火災保険は賃貸では必須だ。
自室の火災だけでなく、他室への延焼・水漏れによる損害賠償が発生するリスクがある。
賠償金額が数百万円規模になる可能性があり、貯金では対処できない詰む水準だ。
ただし賃貸の火災保険は更新時に保険会社を変えることで保険料を下げられるケースがある。
貢献利益が低い保険(切る候補)
医療保険は公的制度との重複が多い。
高額療養費制度があるため、入院・手術の自己負担額は月8〜10万円程度に抑えられる。
生活防衛資金(月固定費×3か月分)が確保されていれば、医療費は貯金で対処できる水準だ。
貢献利益は低くなりやすい。
生命保険は扶養家族がいない一人暮らしでは貢献利益がほぼゼロだ。
生命保険の目的は「自分が死んだときに残された家族の生活を守ること」だ。
扶養家族がいない場合、自分の死亡で生活が詰む人がいないため保険の出番がない。
スマホ補償・延長保証は「不便な水準」のリスクをカバーするものが多い。
端末が壊れて困るのは事実だが、貯金で対処できる水準であれば保険の必要性は低い。
月額保険料×年数が端末の修理・買い替えコストを超えているケースも多い。
公的制度との比較:貢献利益が重複している保険を特定する
民間保険の貢献利益を正確に評価するには、公的制度でカバーされる範囲を先に確認する必要がある。
公的制度でカバーされる部分に民間保険を重ねても、貢献利益は重複して低くなる。
高額療養費制度
1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度だ。
年収約370万〜770万円の会社員の場合、自己負担の上限は月約8〜10万円になる。
医療保険で「入院1日あたり◯円」という補償を重ねても、
この上限を下回る自己負担しか発生しない場合は実質的に重複している。
一次情報:厚生労働省:高額療養費制度
傷病手当金
会社員が病気・ケガで連続4日以上休業した場合、給与の約3分の2が最長1年6か月支給される制度だ。
就業不能保険の必要性を評価するとき、傷病手当金が出る期間(1年6か月)と出ない期間(それ以降)を分けて考える。
1年6か月以内で回復する見込みなら就業不能保険の貢献利益は下がる。
長期化リスクが高い場合は貢献利益が上がる。
一次情報:全国健康保険協会:傷病手当金
公的制度の確認が先・民間保険は後
判断の順番はこうなる。
- 発生しうるリスクを書き出す
- そのリスクに対して公的制度でカバーされる範囲を確認する
- 公的制度でカバーされない部分が「詰む水準」かどうか判断する
- 詰む水準の残余リスクにだけ民間保険を当てる
この順番を守ると、民間保険の貢献利益を正確に評価できる。
よくある誤解:ここで判断が止まる
誤解1:万が一が不安だから保険に入っていた方がいい
「万が一」という感覚は判断基準ではない。
「万が一が起きたとき、貯金と公的制度だけでは対処できないか」が判断基準だ。
不安の大きさと保険の必要性は比例しない。
リスクの水準を「詰む・困る・不便」に分類してから判断する。
誤解2:若いうちに入る方が保険料が安くて得だ
保険料が安いことと貢献利益が高いことは別だ。
保険料が安くても、カバーされるリスクが詰む水準でなければ貢献利益は低い。
「若いうちに安く入れる」という理由は残す根拠にならない。
必要な保険に必要な時期に入るのが合理的な判断だ。
誤解3:解約すると損をする
解約で損をするのは貯蓄型保険(解約返戻金が元本割れするケース)だ。
掛け捨て型の保険は解約しても戻るものがないため、解約による損は発生しない。
過去に払った保険料は埋没コストだ。
これからの保険料を払い続ける価値があるかだけで判断する。
誤解4:保険は全部残しておいた方が安心だ
保険料は毎月の固定費だ。
貢献利益が低い保険に払い続けるコストは、生活防衛資金の積立や他の見直しに使えた資金だ。
「全部残す」という判断は、貢献利益の低い保険に固定費を払い続けることを意味する。
安心を買うコストが適切かどうかを数字で確認する。
行動基準:今日保険料の貢献利益を計算する
STEP1:今入っている保険を全部書き出す(10分)
クレカ明細・銀行引落から保険料として払っているものを全部書き出す。
保険証券が手元にあれば補償内容も確認する。
「何の保険に入っているか即答できない」ものは即解約候補だ。
STEP2:各保険のリスク水準を判定する(15分)
各保険がカバーするリスクを「詰む・困る・不便」に分類する。
次の問いで判定できる。
- そのリスクが発生したとき、貯金と公的制度だけで対処できるか
- 対処できる → 困る水準以下。民間保険の貢献利益は低い
- 対処できない → 詰む水準。残す候補
STEP3:貢献利益が低い保険を1本解約または見直す(15分)
困る水準以下のリスクをカバーしている保険を1本選んで解約または補償内容の変更を検討する。
更新月・解約タイミングを確認してから動く。
掛け捨て型は即解約できる。貯蓄型は解約返戻金の確認が先だ。
保険の種類別の詳細な判断基準はここで確認する。
20代一人暮らしは保険いらない?例外3つと判断基準
医療保険の必要性の詳細はここで確認する。
医療保険は必要?一人暮らし20代の判断基準と公的制度との比較
固定費全体の削る順番はここで確認する。
固定費見直しチェックリスト|20代一人暮らしが最初に潰す5項目
前の記事:サブスクを解約できない埋没コストの正体を構造で切る。
解約できないサブスクの正体は埋没コストだった|「もったいない」の錯覚を切る
管理会計の4概念をまとめて確認したい人はここ。
固定費を管理会計の4つの概念で整理する|損益分岐点・機会コスト・埋没コスト・貢献利益
まとめ
- 保険の判断基準は「保険料に対してカバーされるリスクが詰む水準かどうか」だ
- 詰む水準=貯金と公的制度だけでは対処できないリスク。それ以外は貢献利益が低い
- 20代一人暮らしで貢献利益が高い保険は就業不能保険・火災保険が代表的だ
- 医療保険は高額療養費制度との重複を確認してから判断する。生命保険は扶養家族がいなければ不要
- 公的制度でカバーされる範囲を先に確認してから、残余リスクに民間保険を当てる順番にする
- 解約による損は埋没コスト。これからの保険料を払う価値があるかだけで判断する
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